矢倉(やぐら)は、お互いに飛車を振らない相居飛車(居飛車どうしの将棋)の代表的な戦型です。金銀 3 枚で玉を囲う「矢倉囲い」に組み、じっくり攻め合います。昔は決まった 24 手を覚えて組む「24 手組」が定番でしたが、今は組む順番の考え方が変わっています。

先に結論を書くと、覚えることは次の 3 つです。

  1. 5 手目は ☗6六歩ではなく ☗7七銀。 6六に歩がなければ、後手は ☖6五歩と歩をぶつけて仕掛けられないため
  2. 早めに ☗2五歩と突き、☖3三銀と上がらせる。 後手の角道(角が斜めに通る道)を止めさせて、角を使った急戦(囲いが完成する前に攻めてくる指し方)を指しにくくするため
  3. ☗3六歩のあとの ☖6四角は飛車取り。 玉の通り道を空ける ☗6八角より先に、☗3七銀で受ける

この記事では先手の矢倉を例に、金矢倉が完成するまでの組み方と、序盤の分かれ道での指し方を、5 枚の局面図と、1 手ずつ並べられる盤で見ていきます。矢倉囲いを崩す攻め方は名前とねらいの紹介にとどめ、細かい変化は扱いません。

矢倉とは:金銀 3 枚で玉を囲う相居飛車の戦型

矢倉は、玉を8八(後手なら2二)に置き、7七の銀と、6七・7八の金で守る囲いです。この形を「金矢倉」と呼び、6七が金ではなく銀なら「銀矢倉」です。正面(上)からの攻めに強いのが特長です。矢倉は囲いの名前でもあり、お互いに矢倉に組む将棋(相矢倉)を指す戦型の名前でもあります。

同じ相居飛車でも、早めに角を交換するのが角換わり、飛車先の歩を交換したあと先手が飛車で3四の歩(横歩)を取るのが横歩取りです。矢倉は角を交換せず、角道を止めて玉を固めてから戦います。

矢倉の組み方:金矢倉が完成するまでの手順

☗7六歩 ☖8四歩 ☗6八銀 ☖3四歩 ☗7七銀 ☖6二銀 ☗2六歩 ☖4二銀 ☗2五歩 ☖3三銀 ☗4八銀 ☖3二金 ☗5六歩 ☖4一玉 ☗7八金 ☖5二金 ☗6九玉 ☖7四歩 ☗5八金 ☖4四歩 ☗6六歩 ☖4三金右 ☗6七金右 ☖3一角 ☗7九角 ☖5四歩 ☗3六歩 ☖6四角 ☗3七銀 ☖3一玉 ☗6八角 ☖2二玉 ☗7九玉 ☖8五歩 ☗8八玉(第1図)

「金右」は、2 枚の金のうち右側の金が動くという意味です。

先手の玉が8八に入り、7七の銀、6七と7八の金で金矢倉が完成している。角は6八、もう 1 枚の銀は3七、飛車は2八。後手も玉を2二に入れ、3三の銀と3二・4三の金で矢倉に組んでいる。後手の角は6四。持ち駒はお互いになし
第1図 ☗8八玉まで(基本図)

第1図までは、次の 4 つの段階に分けると覚えやすくなります。

  1. 銀を7七へ(3・5 手目)。 ☗6八銀は ☗7七銀と上がるための準備。6筋の歩はまだ突かない
  2. 飛車先を伸ばす(7・9 手目)。 ☗2六歩・☗2五歩で、後手に ☖3三銀と上がらせる
  3. 金と玉を交互に寄せる(11〜23 手目)。 ☗4八銀・☗5六歩で中央を固め、☗7八金・☗6九玉・☗5八金。後手の角道が止まり、☖6五歩とぶつけられる心配が減ったところで、☗6六歩・☗6七金右と囲いの形を作る
  4. 角を動かして玉を入れる(25〜35 手目)。 ☗7九角と引き、☗6八角と上がって7九を空け、☗7九玉・☗8八玉と玉を入れる(「入城」と言います)

後手も、☖3三銀・☖3二金・☖4三金右・☖2二玉で同じ形の矢倉に組んでいます。先手の囲いを盤ごと 180 度回した形です。

この記事の手順は、下の盤で並べられます。後手の ☖3二金・☖3三角、☖3三銀に ☗2四歩と突く失敗、☖6四歩・☖6五歩の急戦、☗3七銀を省いて ☗6八角と指す失敗、第1図からの ☖7三銀・☖7五歩も入れてあるので、分かれ道で手を切り替えて、形勢の違いを見比べてください。

棋譜蔵 | 将棋の棋譜・定跡を管理して研究する Web アプリ棋譜蔵は、将棋の棋譜と定跡をブラウザ上で保存・整理し、定跡トレーニングや形勢解析で自主研究を進められる Web アプリです。棋譜蔵

手元のソフト(やねうら王)で第1図を調べると、ほぼ互角でした。

矢倉の正しい指し方:急戦を封じてから囲う

5 手目は ☗7七銀、早めの ☗2五歩で ☖3三銀を決めさせる

以前の矢倉は、5 手目に ☗6六歩と突いて角道を止めるのが普通でした。この形だと、後手は ☖6四歩から ☖6五歩と歩をぶつけて、6筋で戦いを起こせます。5 手目に ☗7七銀と上がり、6筋の歩を6七に置いたままにしておけば、☖6五歩と突かれてもぶつかる歩がありません。また6六が空いているので、あとで ☗6六銀と銀を使う形も選べます。

次に大事なのが、7 手目からの ☗2六歩・☗2五歩です。

6 手目(☖6二銀)から ☗2六歩 ☖4二銀 ☗2五歩 ☖3三銀(第2図)

先手は銀を7七に上がり、2筋の歩を2五まで伸ばしている。後手は銀を3三に上がって2四を守り、2二の角の通り道もふさがった。持ち駒はお互いになし
第2図 ☖3三銀まで

☗2五歩と突くと、次に ☗2四歩で飛車先の歩を交換する手が生じます。後手は2四を守らなければなりません。☖3三銀と上がれば守れますが、その銀で自分の角道をふさぐことになります。角道が止まると、後手は角を使った急戦が指しにくくなり、先手は落ち着いて囲えます。

昔の 24 手組の時代には、「☗2六歩はいつでも突けるので後回しにしたほうが得」と考えられていました。今は逆に、早く ☗2五歩まで突いて後手の形を決めさせます。

☖3二金なら ☗2四歩で飛車先の歩を交換する

後手が ☖3三銀と上がらず、☖3二金と受けてくることもあります。今の矢倉ではよく見る応じ方です。このときは2四を守るのが2三の歩だけなので、☗2四歩で飛車先の歩を交換できます。

9 手目(☗2五歩)から ☖3二金 ☗2四歩 ☖同歩 ☗同飛(第3図)

後手が金を3二に上がった形で、先手は2筋の歩を交換し、飛車が2四に出ている。後手の銀は4二のまま。先手の持ち駒は歩 1 枚、後手は歩 1 枚
第3図 ☗同飛まで(後手が ☖3二金と指した場合)

ソフトでは先手の +80 前後で、互角の範囲です。ただ、歩を 1 枚持ち駒にでき、飛車も2筋で働くので、先手が指しやすい形です。後手が ☖2三歩と打ってきたら、☗3四飛と横歩を取る手も、☗2八飛と引く手もあります。この形はお互いに矢倉に組まず、相掛かりに近い戦いになります。

後手の ☖6四歩・☖6五歩には、慌てず囲いを続ける

18 手目に、後手が ☖6四歩から ☖6五歩と6筋の歩を伸ばしてくる急戦もあります。

17 手目(☗6九玉)から ☖6四歩 ☗5八金 ☖6五歩 ☗7九角

5 手目に ☗6六歩と突いていれば、ここで歩がぶつかって戦いになるところです。☗7七銀型なら6六に歩がないので、☖6五歩は空振りになります。先手は ☗7九角・☗3六歩と囲いを続ければよく、ソフトでも先手の +100 前後と、互角の範囲ながら先手が組みやすい展開です。「1. 5 手目は ☗7七銀」の効果が、いちばんよく分かる変化です。

☖6四角には ☗3七銀で受ける

囲いの最後は、角を ☗7九角・☗6八角と動かして7九を空け、玉を入れます。その途中、27 手目に ☗3六歩を突いています。3七に銀を上がって攻めの形(3七銀戦法)を作るための準備です。ただしこの手で3七が空き、28 手目の ☖6四角が飛車取りになります。

第2図から ☗4八銀 ☖3二金 ☗5六歩 ☖4一玉 ☗7八金 ☖5二金 ☗6九玉 ☖7四歩 ☗5八金 ☖4四歩 ☗6六歩 ☖4三金右 ☗6七金右 ☖3一角 ☗7九角 ☖5四歩 ☗3六歩 ☖6四角 ☗3七銀(第4図)

後手の角が6四に出て、5五・4六・3七を通って2八の先手の飛車をねらっていた。先手は銀を3七に上がり、角の通り道をふさいだ。先手の角はまだ7九、玉は6九。持ち駒はお互いになし
第4図 ☗3七銀まで

6四の角から5五・4六・3七を通って、2八の飛車まで斜めの筋が通っています。☗3七銀と上がれば、角の利きが止まって飛車を守れます。そのうえで ☗6八角 ☖2二玉 ☗7九玉 ☖8五歩 ☗8八玉と玉を入れれば第1図です。ここまで、ソフトの評価はずっと互角のままです。

よくある失敗:☗6八角と急いで飛車を取られる

いちばん怖いのは、28 手目の ☖6四角に ☗6八角と指す失敗です。玉の通り道を空けようと急ぐと、こうなりがちです。

28 手目(☖6四角)から ☗6八角 ☖2八角成(第5図)

後手の角が2八に成り込み、先手の飛車を取って馬になっている。先手の3七は空いたままで、銀は4八。先手の角は6八、玉は6九。先手の持ち駒はなし、後手は飛車 1 枚
第5図 ☖2八角成まで(☗3七銀を省いて ☗6八角と指した場合)

飛車をただで取られ、馬(成った角)まで作られました。ソフトでは後手の +5700 前後で、勝負がついています。矢倉は囲う手数が長いので、相手の手を見ずに覚えた順番どおり指してしまいがちです。☗3六歩を突いたあとは、6四の角から2八の飛車まで斜めの筋が通ることを忘れないようにしましょう。

ほかにも、次のような失敗があります。

失敗の手どうなるか
第2図(☖3三銀)のあとに ☗2四歩2四は銀と歩の 2 枚で守られている。☖同銀と取られ、☗同飛とすると ☖同歩で飛車を取られる。飛車先の歩を交換できず、歩を 1 枚損するだけ(後手の +200 前後)
囲いが完成する前に2筋や3筋から攻める反撃されたとき、玉が戦場に近い。矢倉は囲いを完成させてから攻めるのが基本

矢倉囲いのあとの展開:後手の指し方ごとの応じ方

後手の主な指し方と先手の応じ方をまとめます。

後手の手先手の手ひとこと
10 手目に ☖3三銀☗4八銀から矢倉に組むこの記事の本筋。互角
10 手目に ☖3二金☗2四歩 ☖同歩 ☗同飛飛車先の歩を交換できる(第3図)。互角の範囲で先手が指しやすい
10 手目に ☖3三角☗5六歩・☗7九角とふつうに囲う2四は角で守られているので ☗2四歩は突かない。後手の角道は開いたままなので、☗6六歩は急がない。互角
18 手目に ☖6四歩・☖6五歩☗5八金・☗7九角と囲いを続ける6六に歩がないので争点にならない。先手の +100 前後
第1図から ☖7三銀☗6五歩、☖4二角に ☗3五歩☗6五歩で6四の角に当てて追い、3筋から攻める。互角
第1図から ☖7五歩 ☗同歩 ☖同角☗3五歩7筋の歩を取られても囲いはまだ固い。3筋から攻め返す。互角

第1図からは、3七の銀と6八の角を使って攻めを始めます。矢倉の主な攻め方は次のとおりです。

攻め方ねらい
3七銀戦法☗3七銀から ☗4六銀・☗3五歩などで、3筋・4筋を攻める。第1図の形はこの準備ができている
棒銀右の銀を ☗2七銀・☗2六銀と2筋に進め、2筋や端を破る
雀刺し飛車・香・桂を1筋に集めて、端から攻める
脇システム後手の ☖6四角に ☗4六角と角をぶつけて、角を交換しにいく

それぞれに長い定跡があるので、まずは第1図まで正しく組めるようになってから取り組みましょう。

覚え方と練習

矢倉は手数が長いので、35 手を丸ごと暗記するより、「なぜこの順番か」とセットで覚えると崩れにくくなります。

  1. 段階ごとに並べる。 まず第2図(10 手目)まで、次に第4図(29 手目)まで、最後に第1図(35 手目)まで。上の 4 つの段階を意識して並べる
  2. 分かれ道の次の一手を覚える。 ☖3二金なら ☗2四歩、☖3三銀や ☖3三角なら ☗2四歩は突かない、☖6五歩なら囲いを続ける、☖6四角なら ☗3七銀
  3. 実戦で知らない手を指されたら、その局面を書き足す。 終局後に本やソフトで調べ、分かれ道を 1 つずつ増やしていく。見返すときは、負けた将棋の振り返り方の手順も役に立ちます

実戦で矢倉になったら、終わったあとに棋譜を見返して、どの分かれ道で外れたかを確かめます。棋譜蔵は Web で登録するだけで使えて、保存した自分の棋譜ファイルをパソコンでもスマホでもいつでも開けます。対局の棋譜を貼り付ければそのまま形勢を解析できるので、どこで形勢を損ねたかを手軽に振り返れます。

よくある質問

矢倉は今でも通用しますか?

通用します。この記事の手順は、ソフトで調べても最後まで互角です。

プロの公式戦では、2013 年度ごろから先手の矢倉が減りました。☗4六銀・☗3七桂の形が後手の ☖4五歩の反発でねらわれるようになったこと、2015 年度から後手の「矢倉左美濃急戦」で囲う前に攻められるようになったことなどが理由です(将棋情報局)。そこで 5 手目の ☗7七銀と早めの ☗2五歩に切り替わり、2019 年度には先手矢倉の対局数が前年度の 193 局から 348 局に増え、先手の勝率も 4 割 1 分から 5 割 2 分に戻りました(将棋情報局、2020 年)。この記事の組み方は、この流れに沿ったものです。

後手が急戦や雁木で来たら?

この記事で扱ったのは ☖6四歩・☖6五歩の急戦だけです。ほかにも、矢倉に組まない雁木、右四間飛車、左美濃急戦など、後手の指し方はいろいろあります。共通する考え方は、☗7七銀と ☗2五歩で急戦の争点を減らしておくこと、相手の角がどこをねらっているかを毎手確かめることです。

後手番で矢倉に組むには?

この記事の後手の指し方がそのまま参考になります。先手が ☗2五歩と突いてきたら ☖3三銀と受け、☖3二金・☖4三金右・☖2二玉と組めば金矢倉です。ただ後手番は、先手から急戦を仕掛けられる側になります。囲いの途中で角の筋や歩のぶつかりに気をつけましょう。

相手が振り飛車のときも矢倉に組めますか?

振り飛車が相手のときは、矢倉より舟囲いや居飛車穴熊に組むのが普通です。矢倉は、居飛車どうしで正面からぶつかる戦いに向いた囲いだからです。振り飛車側の考え方は、四間飛車の定跡が参考になります。

矢倉囲いの弱点は?

端(9筋)からの攻めと、角で斜めからねらわれるのが苦手です。それに、組み上がるまでに手数がかかるので、途中で急戦を仕掛けられるのがいちばんの弱点です。この記事の ☗7七銀と ☗2五歩は、その弱点を減らすための手です。

まとめ

  • 5 手目は ☗7七銀。6六に歩がないので、☖6五歩と突かれてもぶつからない
  • 早めの ☗2五歩 で ☖3三銀と上がらせ、後手の角道を止めさせる。☖3二金なら ☗2四歩 で飛車先の歩を交換する
  • 囲いは金と玉を交互に寄せ、☗7九角・☗6八角と角を動かしてから ☗7九玉・☗8八玉 と入城する
  • ☗3六歩のあとの ☖6四角は飛車取り。☗6八角と急がず、先に ☗3七銀で受ける

まずは上の盤で第2図まで並べ、次の相居飛車の対局で、5 手目の ☗7七銀から矢倉を組んでみてください。