負けた将棋を見返すのは、退屈でつらい時間に感じるかもしれません。一方で、上達の材料がいちばん多く詰まっているのも負けた一局です。
振り返りは次の順番で進めると、短い時間でも次の対局に生きます。
- 対局の直後に、自分の言葉で敗因を 3 行だけメモする
- AI を使う前に、気になった局面で「別の手」を自分で考える
- AI で答え合わせをする(見るのは「形勢が大きく動いた局面」と「詰みを逃した局面」)
- 敗因を 4 つの型に分ける
- 教訓を 1 つだけ決めて、その局面を問題にして解き直す
この記事では、それぞれのやり方と、評価値に振り回されないための注意点を、級位者から初段前後の方に向けて説明します。
一人でもできる「感想戦」としての振り返り
プロの対局では、終局後に対局者どうしが一局を検討する「感想戦」が行われます。道場や大会でも、指し終えた相手と「ここはどう指すべきだったか」を話し合う光景はおなじみです。
感想戦の効き目は、正解を知ることだけでなく、「自分はこの局面で何を考えていたか」を言葉にして、次に似た局面が来たときの判断を変えるところにあります。ネット将棋では対局後に相手と話す機会がないため、この時間がまるごと抜け落ちがちです。負けた直後に、次の対局ボタンを押してしまう方も多いのではないでしょうか。
相手がいなくても、感想戦の代わりになる時間を 5〜15 分つくる。これが一人でする振り返りです。
順番は「自分で考える → AIで確かめる」
今はスマホでも、解析機能を使えば評価値(どちらがどれだけ有利かを表す数字)や最善手がすぐに分かります。便利ですが、最初からAIの答えを見ると「なるほど」で終わり、次の対局ではまた同じように迷います。
日本将棋連盟の瀬川晶司理事は、取材の中で「たとえ AI が 100 %良いと評価しても、理解できない手は指せない」と話しています。記事では、自分で考えなければ地力が身につかないとして、一定のレベルまでは AI の活用を控えるよう勧めていることも紹介されています(リコー経済社会研究所ブログ「AIで将棋が進化、最後は棋士の地力」、2026 年1月)。
AI を使うなら「答え合わせの先生」にとどめて、問題を解くのは自分。この順番を守るだけで、同じ解析結果から得られるものが大きく変わります。
負けた将棋を振り返る5つのステップ
ステップ 1:対局直後に 3 行メモ(1 分)
記憶が新しいうちに、次の 3 つだけを書きます。手元のメモアプリで十分です。
- どこで悪くしたと思うか(例:「38 手目あたり、右銀を出たあと」)
- そのとき何を考えていたか(例:「先に攻めないと間に合わないと思った」)
- 時間の使い方(例:「序盤で考えすぎて、終盤は秒読みだった」)
AI の評価を見たあとでは、自分がどう感じていたかを思い出せなくなります。このメモが、あとで「自分の感覚と AI の評価のずれ」を知る手がかりになります。

ステップ 2:AI を見る前に、自分で別の手を考える(3〜5 分)
メモした局面まで盤を戻し、次の 2 つを考えます。
- 相手の手のねらいは何だったか。 悪くなる直前の相手の手が、何をねらっていたのかを確かめます。級位者の負けの多くは、相手のねらいに気づかなかったことから始まります。
- 本当はどう指せばよかったか。 候補手を挙げて、数手先まで読んでみます。1 つだけでもかまいません。
正解が分からなくても大丈夫です。「自分ならこう指す」と決めておくことが、次のステップで答え合わせをするための準備になります。
ステップ 3:AI で答え合わせ(5 分)
ここで初めて解析を見ます。解析は、対局アプリの振り返り機能のほか、棋譜をコピーして解析ソフトや Web サービスに貼り付けても行えます。アプリによっては、解析に回数や料金の制限があります。無料で使える Web サービスの棋譜蔵なら、Web で登録するだけで、対局アプリの棋譜を貼り付けてすぐに形勢を解析できます。保存した自分の棋譜はパソコンでもスマホでもいつでも開けるので、数日後の見直しにも使えます。
評価値のグラフ(形勢の移り変わりを線で表したもの)を開いたら、次の 2 か所を確かめます。
- 形勢が大きく動いた局面
駒をただで取られた、両取りをかけられた、といった一手で、グラフが自分に不利な方へ大きく動きます。級位者のうちは、まずここを優先して見てください。 - 詰みを逃した・詰まされた局面
詰みがあったのに逃した、相手の詰めろ(受けなければ次に玉が詰む状態)に気づかなかった、といった終盤の場面です。AI は長い詰み手順も示しますが、追うのは自分で読める短い詰み(目安として 7 手程度まで)で十分です。
評価値の数字は、ソフトによって尺度が少しずつ違います。おおよその目安は次のとおりです。
| 評価値の差 | 形勢のめやす |
|---|---|
| 0〜300 点くらい | ほぼ互角 |
| 300〜1,000 点くらい | どちらかがはっきり有利 |
| 1,000 点を超える | 大差。逆転は簡単ではない |
見るときのコツが 2 つあります。
- 悪かった手の 1〜2 手前も見る。 グラフが動いた手そのものより、その前の方針や駒の配置に原因があることがよくあります。「自分ではここで悪くしたと思っていたのに、実はもっと前だった」という発見は、振り返りの大きな収穫です。慣れてきたら、互角から少しずつ悪くなり始めた最初の手も探してみましょう。
- ステップ 2 の自分の答えと比べる。 AI の最善手が自分の候補に入っていたか、入っていなかったならなぜ思いつかなかったかを考えます。
ステップ 4:敗因を 4 つの型に分ける(2 分)
原因が分かったら、それがどの型かを決めます。型によって、次にやることが変わるからです。
| 型 | よくある例 | 次にやること |
|---|---|---|
| 読み抜け | 相手の取り返しや王手、両取りを見落とした | 同じ局面を問題にして解き直す。詰将棋や手筋(よく出る駒の使い方)の問題を解く |
| 方針の誤り | 囲いが不十分なまま仕掛けた、攻めるべき局面で受けに回った | 「この形ではこうする」と一言でメモする。同じ戦法のプロの棋譜を盤に並べてみる |
| 知識不足 | 定跡を知らず、序盤で差をつけられた | 定跡から外れた手の前後だけ、定跡を確認する |
| 時間・状態 | 秒読みで焦った、疲れたまま連戦していた | 持ち時間の配分を決める。連敗したら一度休む |
型を分けずに「全部ダメだった」で終わると、次に何をすればよいかが決まりません。1 局で原因が複数あるなら、いちばん大きいもの 1 つで十分です。
ステップ 5:教訓を 1 つ決めて、問題にして解き直す(その場で 1 分+数日後に 1 分)
最後に、この一局から持ち帰る教訓を 1 つだけ決めます。「玉と飛車が近いまま戦いを始めない」のように、次の対局で使える具体的な形にします。
そして、ステップ 3 で見つけた局面を次の一手問題として残し、数日後にもう一度解きます。振り返った直後は分かった気になっていても、日を置くと同じ手を選んでしまうことがよくあります。間違えたら、また数日後に解く。これを繰り返すうちに、同じ負け方は少しずつ減っていきます。
問題として残す方法は、局面図をスクリーンショットで保存するだけでもかまいません。棋譜を保存しておけば、数日後にその局面を開き直して、答えを隠したまま考え直すこともできます。
評価値に振り回されないための注意点
AI の解析は便利ですが、読み方を間違えると振り返りの効果が下がります。
- 終盤の大きな数字は気にしすぎない。
終盤は一手で評価値が数千点動くこともあります。勝ちが決まった局面からのぶれや、すでに負けている局面の悪手まで追いかける必要はありません。 - 理解できない最善手は追わない。
AI の最善手を並べても意味が分からないときは、その先を数手進めてみます。それでも分からなければ、今の自分には早い手だと割り切って次に進みます。 - 「最善手でなかった手」が、すべて悪手というわけではない。
最善手との差が小さい手は、人間にとって十分に良い手です。差が大きく、形勢が入れ替わった手に絞って見ます。 - 数字の向きを確かめる。
評価値を先手から見た点数で表示するソフトでは、後手番のときはマイナスが自分にとって有利です。表示の向きは一度確かめておきましょう。
時間がない日の「5 分振り返り」
毎局 15 分かけるのは大変です。時間がない日は、次の 3 つだけ確かめましょう。
- 評価値のグラフで、形勢が大きく動いた手を 1 つ見つける
- その手の代わりにどう指すべきだったか、自分で一度考えてから AI の手を見る
- 教訓を一言で書く
5 分でも、何も見ずに次の対局へ進むよりずっと多くのことが残ります。
よくある質問
すべての対局を振り返るべきですか?
いいえ。振り返るのは、負けた対局から 1 日 1 局、あるいは「悔しかった 1 局」だけで十分です。無理なく続けられる量にするほうが大切です。
勝った将棋も振り返ったほうがいいですか?
余裕があればおすすめです。勝った将棋にも、相手のミスに助けられた局面が隠れていることがあります。グラフで一度でも負けに傾いた場面がないかだけ見ておくと、次に同じ筋の手を指されたときに気づけます。
AI を使わずに振り返ることはできますか?
できます。ステップ 1・2・4・5 は AI なしでも行えます。対局した相手や、強い友人、道場の先生と話せるなら、それがいちばんの感想戦です。AI は、形勢が動いた局面を見つける作業を速くしてくれる道具だと考えてください。
級位者が AI の解析を使うのは早いですか?
慎重な意見があるのは確かです。先に紹介した瀬川理事は、アマチュアとしてはかなり強い奨励会の級位者でも「AI を使うのはまだ早い」と話しています。
使うなら、役割を絞りましょう。ひとつは、自分で考えたあとの答え合わせ。もうひとつは、駒のただ取られや詰みの見逃しといった、はっきりした失敗を見つけること。最善手の意味を一つひとつ覚えようとするより、自分で考える時間を先に取るほうが力になります。
まとめ
- 振り返りは「自分で考える → AI で確かめる」の順番で
- まず見るのは「形勢が大きく動いた局面」と「詰みを逃した局面」、そしてその 1〜2 手前
- 敗因を 4 つの型に分けて、次にやることを決める
- 教訓は 1 つだけ。その局面を問題にして、数日後に解き直す
次に負けたときは、次の対局ボタンを押す前に、まず 3 行のメモを書いてみてください。