横歩取り青野流は、先手が3四の歩(横歩)を取ったあと、後手の ☖3三角に ☗3六飛と引かずに ☗5八玉 と上がる指し方です。飛車を3四に置いたまま右の桂を跳ね、後手の3三の角を攻めます。
先に結論を書くと、覚えることは次の 3 つです。
- ☗5八玉・☗3六歩・☗3七桂 と組む。飛車を3四に残すので、3筋の歩を突いて右の桂をすぐ使える
- ねらいは ☗4五桂。後手の玉が5二にいると、3三の角は動くと ☗3二飛成があるので逃げられない
- ☖7六飛と横歩を取り返されたら、☗3七桂を急がず ☗7七角。ここが青野流でいちばん間違えやすい所
この記事では、基本図までの手順から、☗4五桂のねらい、後手の ☖8二飛・☖4二玉・☖7六飛への指し方までを、5 枚の局面図と、1 手ずつ並べられる盤で見ていきます。
横歩取り青野流とは:☗3六飛と引かない横歩取り
横歩取りは、先手が飛車で後手の3四の歩を取る戦型です。後手は歩を 1 枚損するかわりに、☖3三角と角を上がって、先手の飛車を目標に動いてきます。
☖3三角のあと、先手の主な指し方は次の 3 つです。
| 名前 | 17 手目 | 特徴 |
|---|---|---|
| 3六飛型(従来の形) | ☗3六飛 | 飛車を3六に引く。昔からの本筋で、穏やかな展開になりやすい |
| 青野流 | ☗5八玉 | 飛車は3四のまま。☗3七桂から右の桂で攻める |
| 勇気流 | ☗6八玉 | 玉を6八へ。7六の歩を取り返されてもよいと考える |
青野流は、鷺宮定跡でも知られる青野照市九段が考えた指し方で、2000 年代のはじめから指されています。一時は後手の ☖7六飛で先手が苦しいとされましたが、2010 年代の後半に先手の指し方が見直されて流行しました。2017 年度の第 45 回升田幸三賞は、青野照市の「横歩取り青野流」と、佐々木勇気の「横歩取り勇気流」がそろって受けています。
青野流のような先手の有力策が研究されたことで、プロの間では後手が横歩取りを選ぶ機会が大きく減った時期がありました。それでも、2023 年の第 72 期王将戦では、後手の羽生善治九段が横歩取りに誘導し、藤井聡太王将が青野流で応じています。
今は、後手が玉を固める持久戦の対策が研究され、プロの間では「先手が一方的によい」とまでは言えない戦型です。手元のソフト(やねうら王)で第1図を調べても、先手の +30 前後とほぼ互角でした。ただ、後手が正しく受けないとすぐに先手の攻めが決まるので、アマチュアの実戦では先手がよく勝てる作戦です。
第1図(基本図)までの手順
☗7六歩 ☖3四歩 ☗2六歩 ☖8四歩 ☗2五歩 ☖8五歩 ☗7八金 ☖3二金 ☗2四歩 ☖同歩 ☗同飛 ☖8六歩 ☗同歩 ☖同飛 ☗3四飛 ☖3三角 ☗5八玉(第1図)

第1図のねらいは次の 3 つです。
- 玉を5八に上がって、中央に構える。 左右どちらからの飛車や角の打ち込みにも対応しやすい(中住まい)
- 3筋の歩を突いて、右の桂を3七に跳ねる。 3六飛型では飛車が3六にいるので、この形は作れない
- 3四の飛車の利きを残す。 3四の飛車は、3筋の縦(3三の角とその奥の3二の金)と、4段目の横(4四から先)の両方に利いている
この記事の手順は、下の盤で並べられます。後手の ☖8二飛・☖4二玉・☖2三銀・☖7六飛と、☖8四飛・☖8八角成・☖5五角などの失敗も入れてあるので、分かれ道で手を切り替えて、形勢の違いを見比べてください。
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青野流の指し方:☗3六歩・☗3七桂から ☗4五桂
後手が ☖5二玉と上がったら:☗4五桂で角を取る
第1図から、後手は ☖2二銀と角の後ろを守り、☖5二玉と玉を上がることがよくあります。先手は ☗3六歩・☗3七桂と右の桂を準備し、後手がほかの駒組みを進めたところで ☗4五桂と跳ねます。
第1図から ☖2二銀 ☗3六歩 ☖5二玉 ☗3七桂 ☖7二銀 ☗4五桂(第2図)

☗4五桂は3三の角を取りにいく手ですが、後手は角を逃がせません。3三の角が、3四の飛車から3二の金への通り道をふさいでいるからです。たとえば ☖5五角と逃げると、☗3二飛成で金を取りながらの王手になり、☖5一玉 ☗4一金で詰みます。
後手は角を助けられないので、ほかの手を指すしかありません。☖8二飛 ☗8七歩 ☖4二玉 ☗3三桂成 ☖同銀と進めば、先手は桂 1 枚で角を取れました。手元のソフトでは先手の +1000 前後で、先手が大きく優勢です。
第2図の前に、後手が ☖2三銀と飛車を追って ☗4五桂の筋を消してくることもあります。そのときは ☗3五飛と引いて、駒組みを続ければ十分です。
3四の飛車の利きを見落とすと、後手はほかにも次のような失敗をしやすくなります。
| 後手の手 | 先手の手 | どうなるか |
|---|---|---|
| ☗3六歩のあと ☖8四飛 | ☗同飛 | 3四の飛車が4段目を横に利いていて、飛車をただで取れる |
| ☗3六歩のあと ☖8八角成 | ☗3二飛成 | ☗同銀と取り返さずに金を取る。8六の飛車は3二を守れず、先手が大きく優勢 |
| 第2図で ☖5五角と逃げる | ☗3二飛成 | ☖5一玉 ☗4一金で詰み |
☖8二飛には ☗8三歩・☗8四歩で飛車を押し戻す
後手が ☖5二玉の前に ☖8二飛と飛車を元の位置に引き、角を交換して ☖3三銀と飛車を追ってくる形があります。
第1図から ☖2二銀 ☗3六歩 ☖8二飛 ☗3七桂 ☖8八角成 ☗同銀 ☖3三銀 ☗8三歩 ☖同飛 ☗8四歩 ☖8二飛 ☗3五飛(第3図)

8二の飛車は、2段目を横に3二の金まで利いています。そのため、☖8八角成に ☗3二飛成とは攻められず(☖同飛で飛車を取られる)、☗同銀と取り返します。
続く ☖3三銀は飛車取りですが、先手は飛車を逃げる前に ☗8三歩と打ちます。
- ☖3四銀と飛車を取れば、☗8二歩成で後手の飛車を取り返します。 ☖同銀には、取った飛車を ☗8四飛と打つのが好手です。8二の銀と3四の銀に両方当たり、☖7一銀なら ☗3四飛で銀を取って先手が優勢です
- ☖同飛には、もう一度 ☗8四歩と打ちます。 この歩は3四の飛車が横から支えているので、後手は ☖同飛と取れません
☗8三歩・☗8四歩のねらいは、後手の飛車を8二に戻させて手番を稼ぐことです。その間に飛車を ☗3五飛と安全な所へ引けました。第3図は手元のソフトで先手の +150 前後で、先手が少し指しやすい局面です。この ☖8二飛型は青野流が現れたころの後手の対策の1 つでしたが、☗8三歩・☗8四歩の手順で先手が指しやすいとされ、今はあまり見かけません。
☖4二玉と固められたら:☗3八銀で急がない
後手が急がずに玉を固めてくることもあります。玉を4二に置くと、3二の金を玉が守るので ☗3二飛成の筋が消え、☗4五桂と跳ねても ☖8八角成などで角を交換してかわされます。
第1図から ☖2二銀 ☗3六歩 ☖4二玉 ☗3七桂 ☖6二銀 ☗3八銀 ☖5一金
ここで無理に仕掛けず、先手は ☗3八銀で2七・4七を守り、☗9六歩などで様子を見ながら、☗4五桂を跳ねる機会を待ちます。手元のソフトでは先手の +80 前後で、ほぼ互角です。後手にこう固められると、☖2三銀と飛車を追われるなど3四の飛車がかえってねらわれやすくなり、先手が指しこなすのは意外に難しい形です。駒組みで互角を保てれば十分だと考えましょう。
よくある失敗:☖7六飛に ☗3七桂と跳ねる
青野流でいちばん多い失敗は、後手が ☖7六飛と横歩を取り返してきたときに、いつもの調子で ☗3七桂と跳ねることです。
第1図から ☖5二玉 ☗3六歩 ☖7六飛 ☗3七桂 ☖7八飛成 ☗同銀 ☖8八角成(第4図)

7六の歩がいなくなったので、7六の飛車は7七・7八と縦に利き、7八の金をにらんでいます。しかも3三の角が8八の角に当たっています。☖7八飛成で金を取られ、☗同銀と取り返しても ☖8八角成で角も取られ、馬が先手陣に入ります。飛車 1 枚と金・角の交換で、先手の駒損が大きすぎます(手元のソフトでは後手の +2400 前後)。
☖7六飛の時点で「☖7八飛成と ☖8八角成」の両方がねらわれているので、それを受けない手はどれも失敗です。☗3七桂がまずいのは、このねらいを放っておくからです。
ほかにも、次のような失敗があります。
| 失敗の手 | どうなるか |
|---|---|
| ☖8二飛型で、☖8八角成に ☗3二飛成 | 8二の飛車が3二を守っていて、☖同飛で飛車を取られる |
| ☖5五角の両取り(第5図)に、☗2四飛と飛車で2一の桂をねらう | ☖2二歩と受けられて攻めが止まり、両取りだけが残って後手が指しやすくなる |
その後の展開:☖7六飛には ☗7七角
☖7六飛には、☗7七角 と角を上がって、7筋の通り道と ☖8八角成の筋を両方ふさぎます。
第1図から ☖5二玉 ☗3六歩 ☖7六飛 ☗7七角 ☖同角成 ☗同桂 ☖5五角(第5図)

☖5五角は、1九の香と7七の桂の両取りです。ここは両方を受けようとせず、☗2二歩 と打ちます。後手は ☖2二銀と上がっていないので2二が空いていて、次に ☗2一歩成と桂を取る手があります。後手も忙しくなり、両取りの得が薄れます。
☗2二歩のあとの後手の手と、先手の応じ方をまとめます。
| 後手の手 | 先手の手 | ひとこと |
|---|---|---|
| ☖3三桂(桂を逃げる) | ☗2一歩成 ☖4二銀 ☗2三歩 ☖同金 ☗8四飛 | お互いに攻め合う。ほぼ互角 |
| ☖同角(2二の歩を取る) | ☗6八銀 | ☖7七角成を防ぐ。後手のいちばん有力な手で、ほぼ互角 |
| ☖7七角成(桂を取る) | ☗同金 ☖同飛成 ☗7八歩 | ☗2一歩成が残り、先手が優勢 |
| ☖1九角成(香を取る) | ☗2一歩成 | 桂を取り返し、と金も残る。先手が優勢 |
| ☖同銀(3一の銀で取る) | ☗3二飛成 | 3二の金を守る駒がいなくなり、☖5一玉 ☗4一金で詰み |
☖7六飛の変化は、青野流の中でも互角に近い難しい戦いになります。ここで覚えておくのは、☖7六飛には ☗7七角、☖5五角の両取りには ☗2二歩、の 2 つです。この ☖7六飛型の手順も、上の盤で並べられます(18 手目の分かれ道で ☖5二玉を選び、☗3六歩 ☖7六飛と進めます)。
覚え方と練習
青野流は、手順を最初から暗記するより、後手の応じ方ごとに「次の一手」を覚えるほうが身につきます。
- 第1図まで並べる。 17 手目の ☗5八玉までを、何も見ずに並べられるようにする
- 後手の 4 つの応じ方と次の一手を覚える。 ☖5二玉なら ☗4五桂、☖8二飛なら ☗8三歩、☖4二玉なら ☗3八銀、☖7六飛なら ☗7七角
- 実戦で知らない手を指されたら、その局面を書き足す。 終局後に本やソフトで調べ、分かれ道を 1 つずつ増やしていく。見返すときは、負けた将棋の振り返り方の手順も役に立ちます
書き足した分かれ道は、その局面を見て次の一手を答える形で繰り返すと忘れにくくなります。
実戦で青野流になったら、終わったあとに棋譜を見返して、どの分かれ道で外れたかを確かめます。棋譜蔵は Web で登録するだけで使えて、保存した自分の棋譜ファイルをパソコンでもスマホでもいつでも開けます。対局の棋譜を貼り付ければそのまま形勢を解析できるので、どこで形勢を損ねたかを手軽に振り返れます。
よくある質問
青野流は先手有利ですか?
プロの研究では、後手が正しく受ければほぼ互角とされています。ただ、後手の受け方を 1 つ間違えると ☗4五桂などで先手の攻めがすぐに決まるので、実戦的には先手が勝ちやすい作戦です。
青野流と勇気流は、どう違いますか?
どちらも ☖3三角に ☗3六飛と引かず、飛車を3四に置いたまま ☗3六歩・☗3七桂をねらう指し方です。違いは玉の位置で、青野流は ☗5八玉、勇気流は ☗6八玉と上がります。勇気流は7六の歩を取らせてもよいという考え方で、☖7六飛と取られたあとの戦い方が青野流と変わります。
後手が ☖3三角と上がらなかったら?
青野流は、16 手目に後手が ☖3三角と上がった形でだけ使えます。後手はほかに、☖8八角成と角を交換して激しく戦う形(☖4五角戦法や相横歩取り)を選ぶこともあります。その場合は、それぞれの定跡で対応します。
後手番で青野流を受けるには?
第5図の ☖7六飛型か、☖2二銀・☖4二玉と玉を固める持久戦が代表的です。どちらも、「玉を5二に置いたまま駒組みを進めると ☗4五桂で角を取られる」ことを防ぐ考え方です。後手の対策には、ほかにも飯島栄治八段や屋敷伸之九段の名前がついた形など、プロが研究した指し方があります。
まとめ
- 横歩取り青野流は、☖3三角に ☗3六飛と引かず ☗5八玉。飛車は3四に置いたまま
- ☗3六歩・☗3七桂から ☗4五桂。後手の玉が5二なら、3三の角は ☗3二飛成があるので逃げられない
- ☖8二飛には ☗8三歩・☗8四歩 で飛車を押し戻してから ☗3五飛。☖4二玉と固められたら ☗3八銀で急がない
- ☖7六飛には ☗3七桂を急がず ☗7七角。☖5五角の両取りには ☗2二歩
まずは上の盤で第1図まで並べ、次に横歩取りになって後手が ☖3三角と上がったら、☗5八玉と上がってみてください。