早石田は、先手が 3 手目に ☗7五歩と突き、飛車を7筋に回して序盤から一気に攻めてくる振り飛車の戦法です。後手の居飛車が受け方を知らないと、20 手にもならないうちに飛車か銀を取られて終わってしまうことがあります。
先に結論を書くと、後手が覚えることは次の 3 つです。
- 4 手目は ☖4二玉。角交換のあとで ☗5五角と打たれても、☖3二玉の一手で2二の銀を守れる形にしておく
- ☗7八飛には ☖6二銀。☗7四歩と突かれても ☖同歩と取らずに ☖7二金。取ると ☗2二角成 ☖同銀 ☗5五角で、2二の銀と8二の飛車を両取りにされる
- ☗6六歩と角道を止められたら、急がずに玉を囲って持久戦にする。早石田の速攻はそこで終わる
この記事では、先手の早石田を後手で受ける形について、☖4二玉までの手順、☗7四歩への正しい受け方、ありがちな失敗、その後の先手の攻めを、5 枚の局面図と、1 手ずつ並べられる盤で見ていきます。
早石田とは
早石田は、☗7六歩 ☖3四歩 ☗7五歩と7筋の歩を伸ばし、☗7八飛と飛車を回して、☗7四歩から7筋を攻める戦法です。三間飛車の一種で、飛車を7六、桂を7七に置く「石田流」の構えを目指しながら、角交換の筋を残したまま序盤から攻めかかるのが特徴です。角道を止めてじっくり組む石田流の「本組」とは、ここが違います。
石田流の名は、江戸時代の盲目の棋士・石田検校が生み出したと伝わることに由来します。1971 年には升田幸三実力制第四代名人が、☗7五歩から早めに ☗4八玉と上がる「升田式石田流」を、第 30 期名人戦で当時の大山康晴名人を相手に使いました。2004 年には鈴木大介(現九段)が、後手が ☖8四歩・☖8五歩と飛車先を伸ばしてきた形に 7 手目でいきなり ☗7四歩と突く新しい早石田を実戦で使い、第 32 回升田幸三賞を受けています。
早石田の怖さは、角交換のあとの ☗5五角です。5五の角は、後手陣の2二と8二の両方に利きます。後手が形を誤ると、この一手で銀か飛車を取られます。逆に、この角打ちを空振りにする形さえ覚えておけば、後手が困ることはまずありません。手元のソフト(やねうら王)で 3 手目 ☗7五歩の局面を調べても、評価値はほぼ互角でした。早石田は無理な戦法ではなく、1 つの罠を知っているかどうかで、序盤の形勢が大きく分かれる戦法です。
第1図(基本図)までの手順
☗7六歩 ☖3四歩 ☗7五歩 ☖4二玉(第1図)

☖4二玉のねらいは次の 2 つです。
- ☗5五角に、☖3二玉の一手で備えられる。 早石田の ☗5五角は、2二の銀を必ずねらってきます。玉が4二にいれば、☖3二玉と寄るだけで銀を守れます
- 角交換からの ☖4五角を打てる形にしておく。 先手が ☗7八飛と回ると、☖8八角成 ☗同銀 ☖4五角と打って2七と6七の歩をねらう筋があります。☖4二玉を指さずにこれを打つと、☗7七角と打ち返されて1一の香をねらわれ、先手がよくなります。玉が4二にいれば、少なくとも互角の勝負になります
このため、☖4二玉には ☗6六歩と角道を止めて、ゆっくり石田流に組むのが一般的とされています。ただ、実戦では ☗7八飛と構わず回ってくる人も多いので、この記事ではその受け方を中心に説明します。
この記事の手順は、下の盤で並べられます。☗7四歩への正しい受けのほかに、☖同歩と取る失敗と ☗6六歩からの持久戦も入れてあるので、分かれ道で手を切り替えて、形勢の違いを見比べてください。
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早石田の正しい受け方(対策)
☗7八飛には ☖6二銀
第1図から ☗7八飛と回ってきたら、☖6二銀と上がります。☖4五角と打つ手もありますが、☗5八玉と6七を守られると互角の乱戦になります(「よくある質問」で説明します)。穏やかに駒を組むほうが評価もよく、覚えることも少なくて済みます。
☖6二銀は、7三の地点を守れる銀を先に上がる手です。早石田の攻めは、結局7三に集まってきます。そこを守る駒を、攻められる前に用意しておくのがこの手の意味です。
☗7四歩は取らずに ☖7二金
☖6二銀には ☗7四歩と突いてくるのが早石田の仕掛けです。ここで ☖同歩と取りたくなりますが、それが罠です(後の「よくある失敗」で説明します)。正しくは、取らずに ☖7二金と上がります。
第1図から ☗7八飛 ☖6二銀 ☗7四歩 ☖7二金(第2図)

☖7二金は、次の 2 つで先手のねらいを消しています。
- 7三の守りを 3 枚にする。 7三には6二の銀、7二の金、8一の桂が利いています。先手が7三を攻める駒は、7四の歩、7八の飛車、それに角交換して ☗5五角と打ったときの角の 3 枚です。守りも 3 枚あるので、☗7三歩成には ☖同金と取り返せて、先手が飛車で7三に飛び込んでも駒を損するだけです
- 7三の歩を残して、☗5五角の利きを止める。 7三に後手の歩がいるかぎり、5五に角を打たれても、その利きは7三で止まって8二の飛車まで届きません
第2図から ☗7三歩成 ☖同金(☖同銀でもかまいません)と進めば、7筋の攻めはすぐには続きません。後手は ☖8四歩で8筋の歩を伸ばしながら、☖3二玉と玉を囲っていけば指しやすくなります。手元のソフトで第2図を調べると、後手の +200 前後でした。
第2図から ☗7三歩成 ☖同金 ☗5八金 ☖8四歩 ☗4八玉 ☖1四歩 ☗1六歩 ☖3二玉 ☗3八玉 ☖6四歩
☗6六歩と角道を止めてきたら持久戦
第1図で ☗6六歩と角道を止めてきたら、先手は速攻ではなく、石田流の本組を目指しています。後手も急がずに玉を囲います(第3図)。
第1図から ☗6六歩 ☖6二銀 ☗7八飛 ☖6四歩 ☗4八玉 ☖6三銀 ☗3八玉 ☖1四歩 ☗1六歩 ☖3二銀(第3図)

角道が止まっているので、☗5五角の心配はもうありません。ここからは振り飛車と居飛車の持久戦で、手元のソフトの評価もほぼ互角です。☖6四歩・☖6三銀は、7筋の攻めに備えながら、6筋から動く準備です。
よくある失敗:☗7四歩を ☖同歩と取る
いちばんありがちな失敗は、☗7四歩を ☖同歩と取ってしまう手です。歩をただで取れるように見えますが、先手は ☗2二角成 ☖同銀と角を交換して、☗5五角と打ちます(第4図)。
第1図から ☗7八飛 ☖6二銀 ☗7四歩 ☖同歩 ☗2二角成 ☖同銀 ☗5五角(第4図)

☖同歩と取ったことで7三の歩がいなくなり、5五の角は6四・7三を通って8二の飛車まで利いています。反対側では、4四・3三を通って2二の銀に当たっています。☖7三銀と飛車への利きを止めても ☗2二角成で銀を取られ、馬まで作られます。持ち駒の角を4四や3三に打って銀を守っても、今度は ☗8二角成で飛車を取られます。手元のソフトの評価値は先手の +1400 前後で、ここからでは後手はまず逆転できません。
ほかにも、第2図の ☖7二金のかわりに指したくなる手がありますが、7三の守りが足りずにうまくいきません。
| 失敗の手 | どうなるか |
|---|---|
| ☖同歩 | ☗2二角成 ☖同銀 ☗5五角で、銀と飛車の両取り(第4図) |
| ☖8四歩 | ☗2二角成 ☖同銀 ☗5五角のあと、7三を歩・飛車・角の 3 枚で攻められる。守りは銀と桂の 2 枚で足りず、先手が指しやすい |
| ☖5二金 | 5二の金は7三に利いていない。7三での駒の取り合いのあとに ☗5五角と打たれ、先手がやや指しやすい |
☗7四歩が来たら、7三を守っている駒の数を数える、と考えると手を選びやすくなります。攻める側は歩・飛車・角の 3 枚なので、守りも銀・金・桂の 3 枚にしておけば足ります。
☖7二金のあとの先手の攻め
第2図からの先手の主な手と、後手の受け方は次のとおりです(どれも盤で切り替えて並べられます)。
| 先手の手 | 後手の手 | ひとこと |
|---|---|---|
| ☗7三歩成 | ☖同金 | ☖同銀でもよい。☖同桂は ☗7四歩と打たれて桂をねらわれる |
| ☗2二角成 ☖同銀 ☗5五角 | ☖3二玉 | 7三に歩がいるので飛車には届かない。2二の銀を守れば角打ちは空振り |
| ☗5八金・☗4八玉 | ☖8四歩・☖3二玉 | 先手が囲いにいくなら、後手も玉を囲いながら8筋の歩を伸ばす |
中でも間違えやすいのが、☗2二角成 ☖同銀 ☗5五角です(第5図)。第4図と同じ角打ちに見えるので、慌ててしまいがちです。
第2図から ☗2二角成 ☖同銀 ☗5五角(第5図)

第4図との違いは7三の歩です。歩が残っているので、5五の角の利きは7三で止まり、8二の飛車には届きません。困るのは2二の銀だけ(7三の歩は金・銀・桂で守っています)なので、☖3二玉と玉で銀を守れば受かります。飛車を守る手は要りません。手元のソフトの評価値は後手の +500 前後で、先手は角打ちが空振りになったぶん損をしています。
覚え方と練習
早石田は、級位者の将棋でよく見かける戦法です。最初の 20 手ほどで勝負が決まることもあるので、次の順で頭に入れておくと安心です。
- 第1図の形を覚える。 3 手目に ☗7五歩と突かれたら、早石田を疑って ☖4二玉
- ☗7四歩には ☖7二金。 取る前に、7三を守っている駒の数を数える
- ☗5五角が来たら、何に当たっているかを確かめる。 7三に歩がいれば飛車には届かない。2二の銀を ☖3二玉で守る
覚えたら、3 手目 ☗7五歩の局面から、自分で次の一手を答える練習を何度か繰り返すと、実戦で迷わず指せるようになります。
実戦で早石田を指されたら、終わったあとに棋譜を見返して、どこで7三の守りが足りなくなったかを確かめます。棋譜蔵は Web で登録するだけで使えて、保存した自分の棋譜ファイルをパソコンでもスマホでもいつでも開けます。対局の棋譜を貼り付ければそのまま形勢を解析できるので、どこで形勢を損ねたかを手軽に振り返れます。振り返りの手順は負けた将棋の振り返り方にまとめています。
よくある質問
早石田は、先手が有利な戦法ですか?
正しく受ければ、後手が損をすることはありません。3 手目 ☗7五歩の局面は、手元のソフトの評価値でほぼ互角でした。☖7二金と受けた第2図では、後手の +200 前後です。ただし、☗7四歩を ☖同歩と取るなど一手間違えると、すぐに先手の勝勢になります。
☖4五角で咎めたほうがいいのではありませんか?
第1図で ☗7八飛と回ってきたら、☖8八角成 ☗同銀 ☖4五角と打つ手もあります。2七と6七の歩を同時にねらう手で、早石田の咎め方として紹介されることもあります。ただ、☗7四歩 ☖同歩 ☗5八玉と6七を守られると、2七の歩は取れても手元のソフトの評価はほぼ互角で、角を打ち合う乱戦になります。☖6二銀と穏やかに組んだほうが評価がよく、覚えることも少ないので、無理にねらわなくて大丈夫です。
なお、☖4二玉を指していない形で ☖4五角と打つのは危険です。☗7七角と打ち返されて ☗1一角成と香を取られ、先手の +400 前後になります。
4 手目に ☖8四歩と突いてもいいですか?
☖8四歩は、早石田の乱戦にまっすぐ飛び込む手です。☗7八飛 ☖8五歩 ☗7四歩 ☖同歩 ☗2二角成 ☖同銀 ☗5五角 ☖3三角と正確に受ければ、手元のソフトでは後手の +400 前後で、後手が悪くありません。ただ、変化が多く、Wikibooks の石田流の項でも、☖8四歩はリスクが高く、☖6二銀が無難とする棋士の見方が紹介されています。☖6二銀から指しても、☗7八飛 ☖4二玉と進めば、この記事の手順に合流します。
石田流の本組にされたら、どう組めばいいですか?
第3図のように、後手も玉を囲って持久戦にします。石田流の本組に対しては、左美濃や居飛車穴熊に囲う指し方がよく見られます。7筋から攻めてくる飛車には、金を7筋の前へ繰り出して押さえる「棒金」が有効なことも、昔から知られています。
先手番で早石田を指してもいいですか?
ソフトの評価では無理な戦法ではないので、指してもかまいません。相手が ☖同歩と取ってくれれば、すぐに優勢になれます。ただ、この記事の ☖7二金のように正しく受けられると、速攻は続きません。そのときは ☗6六歩と角道を止めて、石田流の本組に切り替える準備もしておきましょう。
まとめ
- 早石田は、☗7五歩・☗7八飛から ☗7四歩で7筋を攻め、角交換のあとの ☗5五角をねらう振り飛車の速攻
- 後手は 4 手目に ☖4二玉。☗7八飛には ☖6二銀、☗7四歩には取らずに ☖7二金で7三を守る
- ☗7四歩を ☖同歩と取ると、☗2二角成 ☖同銀 ☗5五角で銀と飛車の両取りになる
- 7三に歩が残っていれば、☗5五角は飛車に届かない。2二の銀を ☖3二玉で守れば受かる
まずは上の盤で ☗7四歩の局面から ☖7二金と ☖同歩を切り替えて、7三の歩ひとつで形勢がどれだけ変わるかを確かめてみてください。