角換わり右玉は、後手番で角換わりを受けるときに、玉を飛車のいる側(後手から見て右側)に置き、金銀を横に並べて低く広く構える指し方です。自分からは無理に攻めず、先手に攻めさせてから反撃します。腰掛け銀の長い定跡を追いかけなくても組めるので、後手番の角換わりに困っている人の選択肢になります。
先に結論を書くと、覚えることは次の 3 つです。
- 飛車は ☖8一飛と下段に引き、玉は ☖7二玉まで寄せる。1段目に飛車の横の利きを通しておくと、飛車を成り込まれても取り返せる
- ☖3三銀の形で待つ。3三の銀が2四を守っているうちは、先手は飛車先の歩を交換できない
- 飛車先を交換されたら ☖2三歩と打たずに ☖3三桂。桂が4四の銀と一緒に4五を押さえ、☗3四飛と歩を取りにくる手には ☖2三金で飛車を追い詰められる
この記事では、基本図までの組み方、飛車先交換への対応、右玉側がやりがちな失敗、その後の先手の手を、5 枚の局面図と並べられる盤で説明します。
角換わり右玉とは
ふつうの囲いは、玉を飛車から遠ざけます。飛車のいる側は戦いが起きやすく、玉がそばにいると巻き込まれるからです。右玉はこの逆で、玉を飛車の側に置きます。
角換わりでこの形が成り立つのは、お互いに角を持ち駒にしている戦型だからです。角換わりでは、陣形にすきがあると角を打ち込まれます。右玉は金銀を2段目・3段目に広げ、飛車を1段目(下段)に置いて、角を打ち込まれる場所や成り込まれる場所を減らします。
| ふつうの囲い(矢倉・雁木など) | 角換わり右玉 | |
|---|---|---|
| 玉の位置 | 飛車から遠い側 | 飛車の側(後手なら6二〜7二) |
| 金銀の形 | 玉のまわりに固める | 横に広げて、すきを作らない |
| 戦い方 | 自分から仕掛けることも多い | 先手に攻めさせて反撃する |
| 気をつけること | 囲いの端や玉頭 | 7三の桂の頭と、横から飛車を打たれる攻め |
自分からは動かないので、先手が攻めてこなければ千日手(同じ局面が 4 回現れて指し直しになること)になることもあります。後手番から見れば、千日手は悪い結果ではありません。
右玉を相手にする側の研究も進んでいて、神谷広志八段の『誰も言わなかった右玉の破り方』(マイナビ出版、2019 年)は、角交換の右玉に対して地下鉄飛車(飛車を端の下段に回して端を攻める指し方)・穴熊・速攻の 3 つの攻め方を章立てで扱っています。右玉に組めば定跡がいらなくなるわけではなく、先手が棒銀や早繰り銀で早く攻めてきたときの受け方は、別に覚えておく必要があります。この記事では、先手が腰掛け銀でじっくり組んでくる形を扱います。
第1図(基本図)までの手順
後手の手だけを抜き出すと、次の順番です。先手の手は一例なので、相手の駒組みに合わせて前後してかまいません。
- 角を交換したら、☖4二銀から ☖3三銀、☖7二銀から ☖6三銀と銀を上がる
- ☖6四歩・☖7四歩・☖5四歩と歩を4段目に突き、☖7三桂と跳ねる
- 飛車を ☖8一飛と下段に引き、玉を ☖6二玉から ☖7二玉と寄せて、空いた6二に金を寄せる
☗7六歩 ☖8四歩 ☗2六歩 ☖3二金 ☗7八金 ☖8五歩 ☗7七角 ☖3四歩 ☗8八銀 ☖7七角成 ☗同銀 ☖4二銀 ☗3八銀 ☖7二銀 ☗9六歩 ☖9四歩 ☗4六歩 ☖6四歩 ☗4七銀 ☖6三銀 ☗6八玉 ☖5二金 ☗7九玉 ☖7四歩 ☗3六歩 ☖7三桂 ☗5六銀 ☖8一飛 ☗6六歩 ☖6二玉 ☗1六歩 ☖1四歩 ☗5八金 ☖5四歩 ☗8八玉 ☖7二玉 ☗3七桂 ☖6二金 ☗2五歩 ☖3三銀(第1図)

第1図の後手の陣形には、次のねらいがあります。
- 飛車は8一。8二から 1 つ下がった「下段」で、1段目を横に見ています。飛車を成り込まれても、横に利いている飛車で取り返せます
- 玉は7二。☖6二玉から ☖7二玉と、飛車の側へ寄せます。空いた6二には金を寄せます
- 歩は4段目に並べる。☖5四歩・☖6四歩・☖7四歩と突いて、6三の銀と7三の桂を前に出しやすくします
- 銀は3三。2四の地点に利いていて、先手の飛車先の歩の交換を防いでいます
玉を7二まで深く入らず、6二にとどめて金を5二に置く形もあります。どちらも右玉で、この記事では玉を7二まで寄せる形で説明します。手元のソフト(やねうら王)で第1図を調べると、評価値はほぼ 0(先手の +4)で、互角です。
この記事の手順は、下の盤で並べられます。第1図ですぐ ☗2四歩と突く手、右玉側が ☖6五歩と仕掛ける失敗、☖2三歩と受ける手、☗2一飛成や ☗3四飛と手を出す変化も入れてあるので、分かれ道で手を切り替えて形勢の違いを見比べてください。
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角換わり右玉の正しい指し方
3三の銀で2四を守って待つ
第1図で先手がすぐ ☗2四歩と飛車先の歩を交換しにくると、☗2四歩 ☖同歩 ☗同飛 ☖同銀で、飛車をただで取られてしまいます。3三の銀が2四の地点に利いているからです。手元のソフトでも、☖同銀のあとは後手の +2600 前後で、右玉側の勝勢です。
つまり、後手は3三に銀を置いているかぎり、飛車先の歩を交換されません。組み終わったら、先手が動いてくるまで手を待ちます。☖6二金から ☖5二金、また ☖6二金のように、陣形を崩さない駒を行ったり来たりさせるのが右玉の手待ちです。
☖4四銀は ☖3三桂の準備
第1図から ☗4七金と金を上がり、先手が3六の地点(3七の桂の頭)を守ったところで、後手は ☖4四銀と銀を前に出します(第2図)。

☖4四銀で、2四の地点の守りは外れます。先手は飛車先の歩を交換できるようになりますが、そのかわり、2一の桂を3三に跳ねられるようになりました。4四の銀は4五や3五の地点をにらんでいて、あとで3筋から反撃するときの主役にもなります。
飛車先を交換されたら ☖3三桂
第2図から ☗2四歩 ☖同歩 ☗同飛と、先手が飛車先の歩を交換してきました。ここで後手は ☖2三歩と打って受けることもできますが、☖3三桂と跳ねる手が右玉らしい指し方です(第3図)。

☖3三桂には、次のねらいがあります。
- 4五の地点を二重に押さえる。先手が ☗4五桂と跳ねてくる升を、4四の銀と3三の桂で守っています
- 歩を打たずに桂を使う。☖2三歩と打つと2筋は落ち着きますが、持ち駒の歩を使い、2一の桂は働かないままです。☖3三桂なら、あとで ☖3五歩から反撃するときに桂も加わります
- 2筋の成り込みは怖くない。2筋は空いていますが、☗2一飛成は8一の飛車で、☗2二飛成や ☗2三飛成は3二の金で取れます
手元のソフトで調べると、第3図は後手の +20 前後でほぼ互角です。☖2三歩と打った場合も、ほぼ互角の評価でした。
よくある失敗:☖6五歩と自分から仕掛ける
右玉側の攻めの基本は、☖6五歩と突いて7三の桂を使う筋です。ただ、先手の陣形が整っているうちに急いで仕掛けると、うまくいきません。第1図から ☗4七金のところで ☖6五歩と突くと、☗同歩と取られます(第4図)。

6五の地点には先手の5六の銀が利いているので、☖同桂は ☗同銀で桂をただで取られます。取り返す手がないまま歩を 1 枚渡しただけになり、手元のソフトで先手の +600 前後です。右玉は先手に動いてもらってから反撃する戦法なので、自分から仕掛けて陣形が乱れると、良さがなくなります。
ほかにも、右玉側がやりがちな失敗があります。どれも、第3図から ☗4八金 ☖3五歩 ☗同歩 ☖同銀 ☗3四飛と進み、飛車で3五の銀と3三の桂をねらわれた局面での手です。
| 失敗の手 | どうなるか |
|---|---|
| ☖4五桂 | 桂で攻めたつもりでも、3三が空いて ☗3二飛成と金を取られる。先手の +3200 前後 |
| ☖2三金 | 飛車を追っても、3五の銀を守る駒がなく、☗3五飛と銀を取られる。先手の +1100 前後 |
この局面では ☖4四銀と銀を引いて、3三の桂を守るのが正解です(次の章の表を参照)。
その後の展開
第3図からの先手の主な手と、後手の応じ方は次のとおりです(どれも盤で切り替えて並べられます)。
| 先手の手 | 後手の手 | ひとこと |
|---|---|---|
| ☗4八金 | ☖3五歩 | ☗同歩 ☖同銀 ☗3四飛 ☖4四銀と進み、互角の戦いになる |
| ☗2一飛成 | ☖同飛 | 8一の飛車が1段目に利いていて、龍をただで取れる |
| ☗3四飛 | ☖2三金 | 飛車の逃げ場がなくなる。後手が大きく優勢 |
本線は ☗4八金です。第3図から ☗4八金 ☖3五歩 ☗同歩 ☖同銀 ☗3四飛 ☖4四銀と進むのが一例で、後手は ☖3五歩から3筋で反撃し、先手は飛車を3四に回して3五の銀と3三の桂をねらいます。後手が銀を4四に引いて桂を守り、お互いに歩を 2 枚ずつ持ち駒にした局面は、手元のソフトで後手の +40 前後、ほぼ互角です。
いちばん間違えやすいのは、第3図で ☗3四飛と歩を取りにくる手です。守りのない3四の歩がただで取れるように見えますが、☖2三金と上がって飛車を追います(第5図)。

第5図で、3四の飛車がただで逃げられる升はありません。2四は2三の金、3五は4四の銀が押さえていて、3六には自分の歩がいます。☗3三飛成は ☖同金、☗4四飛は ☖同歩で取られます。手元のソフトで後手の +1200 前後で、後手の右玉側が大きく優勢です。
同じ ☖2三金でも、前の章の失敗の表では、3五の銀を守る駒がないので ☗3五飛と銀を取られました。第5図では銀が4四にいて3五を押さえているので、飛車を追い詰められます。☖2三金を指す前に、3五の地点を誰が押さえているかを確かめると覚えておくと迷いません。
右玉の弱点も知っておきましょう。7三の桂の頭は、先手に ☗7五歩と突かれて歩を交換されると弱くなります。また、玉のまわりの金銀が少ないので、終盤に横から飛車を打たれる攻めには弱い形です。駒を取り合う展開になったら、相手の持ち駒の飛車に気をつけます。
覚え方と練習
右玉の手順は、細かく暗記するより「どの駒が、どの地点を守っているか」を覚えるほうが役に立ちます。次の順で頭に入れておくと、実戦で迷いません。
- 第1図の形を覚える。 飛車8一・玉7二・金6二と3二・銀6三と3三・桂7三。3三の銀が2四を守っていることを確かめる
- ☖4四銀から ☖3三桂までを組で覚える。 飛車先を交換されたら ☖2三歩より ☖3三桂。桂と銀で4五を押さえる
- 第3図からの先手の 3 つの手と、その応じ方を確かめる。 ☗2一飛成には ☖同飛、☗3四飛には ☖2三金。☖2三金の前に3五の守りを見る
実戦でこの戦型になったら、終わったあとに棋譜を見返して、どの分かれ道で外れたかを確かめます。棋譜蔵は Web で登録するだけで使えて、保存した自分の棋譜ファイルをパソコンでもスマホでもいつでも開けます。対局の棋譜を貼り付ければそのまま形勢を解析できるので、どこで形勢を損ねたかを手軽に振り返れます。
よくある質問
角換わり右玉は、後手が有利になる戦法ですか?
有利になる戦法ではなく、互角を保ちやすい戦法です。手元のソフトで調べると、第1図は評価値がほぼ 0、第3図は後手の +20 前後で、どちらもほぼ互角でした。先手が無理に攻めてくれば、☗2四歩の早い交換や ☗3四飛のように、右玉側がはっきり優勢になる変化があります。
糸谷流右玉とは違うのですか?
違う戦法です。糸谷流右玉は、主に振り飛車を相手にする右玉で、角換わりの右玉とは形もねらいも別物です。「右玉」と一口に言っても、相手の戦型によって組み方が変わります。
先手番でも右玉は指せますか?
指せます。先手が右玉に組む形や、先手・後手ともに右玉に組む「相右玉」もあります。ただ、後手番のほうが「先手の攻めを受けて反撃する」右玉の考え方に合っていて、よく指されます。
相手に右玉にされたら、どう攻めればいいですか?
この記事の変化を先手側から見ると、攻め方のヒントになります。3三に銀がいるうちは飛車先の歩を交換できないので、すぐに ☗2四歩と突かずに陣形を整えるのが先です。飛車先の歩を交換したあとに ☗2一飛成や ☗3四飛と欲張ると、右玉の罠にかかります。本格的に崩すなら、上で紹介した本のように地下鉄飛車や穴熊に組んでから攻める方針もあります。
まとめ
- 角換わり右玉は、玉を飛車の側に置き、金銀を横に広げて先手の攻めを待つ戦法
- 基本図は、飛車8一・玉7二・金6二と3二・銀6三と3三・桂7三。3三の銀がいるうちは、先手は飛車先の歩を交換できない
- ☖4四銀のあとに飛車先を交換されたら ☖3三桂。☗2一飛成には ☖同飛、☗3四飛には ☖2三金
- 先手が整っているうちに ☖6五歩と仕掛けるのは失敗。☖2三金も、3五の銀が守られていないときは ☗3五飛で銀を取られる
まずは盤で第3図から ☗4八金・☗2一飛成・☗3四飛を切り替えて、右玉の金銀と飛車がどこに利いているかを確かめてみてください。