角換わり腰掛け銀の「従来形」は、右の金を ☗5八金と上がり、飛車は2八のまま、右の銀を5六に構える組み方です。2016 年ごろに ☗4八金・☗2九飛の現代形が主流になるまで、長く角換わりの中心にありました。

先に結論を書くと、覚えることは次の 3 つです。

  1. お互いに同じ形に組む 先後同型 になったら、先手が ☗4五歩 から歩を続けて突き捨てて仕掛ける。突き捨てで桂の跳ね先と角の打ち場所を作るため
  2. 玉が ☗8八玉・☖2二玉 まで囲われていれば 木村定跡。☗1三歩で香を呼んでから ☗2五桂と跳ね、最後は王手の ☗1一角 で決める
  3. 玉が ☗7九玉・☖3一玉 のままなら 富岡流。歩を突く順番を変え、☗1二歩で1一を空けてから ☗1一角 と打つ

この記事では、基本図までの手順、木村定跡と富岡流の攻め方、間違えやすい手、後手が手順を変えたときの攻め方を、5 枚の局面図と並べられる盤で説明します。

角換わり腰掛け銀(従来形)とは

角換わりは、序盤でお互いに角を交換する戦型です。腰掛け銀はその中の1 つで、右の銀を ☗4七銀→☗5六銀と、5筋の歩の上に「腰掛ける」ように据えます。銀が中央にいるので、攻めにも守りにも働きます。お互いに腰掛け銀に組んだ形を「相腰掛け銀」とも呼びます。

腰掛け銀には、金と飛車の置き方で 2 つの形があります。

従来形現代形
右の金☗5八金☗4八金
飛車☗2八飛☗2九飛
玉☗7九玉(☗8八玉まで囲う形も)☗6八玉など、深く囲わない形が多い
よく指された時期昭和〜2010 年代前半2016 年ごろ〜

この記事で扱うのは左の従来形です。現代形は、2016 年3月の NHK 杯決勝で後手の千田翔太が ☖6二金・☖8一飛と組んで注目を集め、先手も ☗4八金・☗2九飛と組むようになって広まりました(現代形は角換わり腰掛け銀の定跡(現代形)で扱っています)。

従来形の先後同型は、木村定跡と富岡流によって、どちらの玉の位置でも先手よしという結論になりました。そのため後手は同じ形に組むのを避けるようになり、次のような指し方が工夫されました。

  • 待って千日手をねらう。 仕掛けずに金や飛車を行ったり来たりさせ、先手が無理に攻めてこなければ千日手(同じ局面の繰り返しで指し直し)にする
  • 後手から先に仕掛ける。 ☖6五歩から先攻する指し方。2014 年に塚田泰明が指した ☖6五同桂の攻めは「塚田流」と呼ばれる
  • ☖6二金・☖8一飛と組む。 2016 年ごろから増えた形で、のちに先手も ☗4八金・☗2九飛と組むようになった

今のプロの角換わりは、ほとんどが現代形です。それでも、歩の突き捨てで桂の跳ね場所を作ること、☗1一角のように角を打つ場所を作って攻めることは、現代形でも使われています。従来形の定跡は、角換わりの攻め方の基本を覚える教材として役に立ちます。

第1図(基本図)までの手順

☗7六歩 ☖8四歩 ☗2六歩 ☖3二金 ☗7八金 ☖8五歩 ☗7七角 ☖3四歩 ☗8八銀 ☖7七角成 ☗同銀 ☖4二銀 ☗3八銀 ☖7二銀 ☗4六歩 ☖6四歩 ☗4七銀 ☖6三銀 ☗6六歩 ☖5二金 ☗5八金 ☖4一玉 ☗6八玉 ☖5四銀 ☗5六銀 ☖3一玉 ☗7九玉 ☖1四歩 ☗1六歩 ☖9四歩 ☗9六歩 ☖7四歩 ☗3六歩 ☖4四歩 ☗3七桂 ☖7三桂 ☗2五歩 ☖3三銀(第1図)

角換わり腰掛け銀・従来形の先後同型。先手は5八金・5六銀・3七桂・2八飛・7九玉、後手も盤を 180 度回すと同じ形で、玉は3一。お互いに角を 1 枚持っている
第1図 ☖3三銀まで(基本図)

先手と後手が、盤を 180 度回すとまったく同じになる形に組みました。これを 先後同型 と言います。

  • 同じ形なら、先に仕掛けられる先手が得をする。 お互いに駒組みがほぼ終わっていて、ここからは先手が仕掛けを考える局面です
  • 玉の位置で定跡が分かれる。 お互いにもう一段囲って ☗8八玉 ☖2二玉と進むと木村定跡、玉をこのままにして仕掛けると富岡流です
  • どちらも ☗4五歩から歩を突き捨て、最後は ☗1一角。 違うのは歩を突く順番と、角を打つ前の準備です

手元のソフト(やねうら王)では、第1図は先手の +70 前後で、ほぼ互角から先手が少し指しやすい程度です。

この記事の手順は、下の盤で並べられます。39 手目の分かれ道で ☗8八玉(木村定跡)と ☗4五歩(富岡流)を切り替えられるほか、間違えやすい手や、後手が手順を変えた変化も入れてあるので、形勢の違いを見比べてください。

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木村定跡と富岡流の正しい指し方

従来形の仕掛けは、☗4五歩から、いくつもの筋の歩を続けて突き捨てるのが特徴です。歩を捨てるのは損に見えますが、それぞれに意味があります。

突く歩ねらい
☗4五歩4筋を開けて、桂の跳ね先と角の通り道を作る
☗3五歩後手の銀を動かし、あとで ☗3四歩と3三をねらう
☗7五歩☗7四歩と、7三の桂の頭をねらう含みを残す
☗2四歩飛車を2筋で働かせ、持ち駒の歩を増やす
☗1五歩☗1三歩や ☗1二歩とたたいて、後手の香と端を乱す

突き捨てた歩は後手の持ち駒になりますが、そのぶん後手陣の歩の形が乱れ、先手の桂や角が入る場所ができます。最後に効いてくるのが、後手陣の1一に角を打つ ☗1一角 です。

木村定跡(☗8八玉・☖2二玉):王手の ☗1一角で攻め切る

お互いに玉を囲いに入れた ☗8八玉・☖2二玉の形から、先手が攻め切る手順を 木村定跡 と言います。昭和30年代に、木村義雄十四世名人がこの形に結論を出したとされています。

第1図から ☗8八玉 ☖2二玉 ☗4五歩 ☖同歩 ☗3五歩 ☖4四銀 ☗7五歩 ☖同歩 ☗2四歩 ☖同歩 ☗同飛 ☖2三歩 ☗2八飛 ☖6三角 ☗1五歩 ☖同歩 ☗1三歩 ☖同香 ☗2五桂 ☖1四香 ☗3四歩 ☖2四歩 ☗3三桂成 ☖同桂 ☗2四飛 ☖2三金 ☗1一角(第2図)

先手が1一に角を打ち、2二の後手玉に王手をかけた局面。先手の飛車は2四で2三の金と向き合い、先手の歩が3四にある。後手は香が1四、桂が3三、銀が4四と5四にいる
第2図 ☗1一角まで(木村定跡)

一手ずつのねらいは次のとおりです。

  • ☗1三歩で香を1三に呼ぶ。 ☖同香と取らせると、☗2五桂と跳ねた桂が、1三の香と3三の地点を同時にねらえます。4五には後手の歩がいるので、桂の跳ね先は2五です
  • ☗3三歩成ではなく ☗3三桂成。 ☖2四歩で桂を取られる前に成り捨てると、2筋が空いて ☗2四飛と飛車が出られます。後手は ☖2三金と上がって飛車を止めます
  • ☗1一角は王手。 2二の玉に直接利いています。☖同玉は ☗2三飛成で先手勝ち、☖1三玉には ☗3三歩成で寄ります。本譜は ☖3二玉とかわします

第2図からは ☖3二玉 ☗3三歩成 ☖同銀 ☗4四桂 ☖同銀 ☗2三飛成 ☖同玉 ☗4四角成と、飛車を捨てて後手玉の守りをはがします。以下 ☖4三金 ☗4五銀 ☖4四金 ☗同銀と進み、先手が攻め切った形とされています。手元のソフト(やねうら王)では、第2図で先手の +1100 前後、☗同銀まで進んだ局面で先手の +1600 前後と、先手の大きなリードです。

木村定跡は、今も先手必勝と言われる定跡です。ただ、後手は ☖2二玉と囲いに入らなければこの形を避けられるので、実戦ではまず現れません。それでも、玉を囲うと1筋・2筋の攻めがそのまま玉に響くことと、☗1一角の筋は、角換わりのどの形でも出てくる大事な考え方です。

富岡流(☗7九玉・☖3一玉):☗1二歩で1一を空けてから ☗1一角

木村定跡があるので、後手は ☖2二玉と入らなくなり、先手も ☗8八玉を省いて ☗7九玉のまま仕掛けるようになりました。第1図の ☗7九玉・☖3一玉の形です。この形では、1992 年に丸山忠久が ☗1一角の筋を使った新手を指し、それに対策が見つかるなど、長く研究が続きました。

決着をつけたのが、2009 年に富岡英作が公式戦で指した攻め方です。2010 年代に入って先手よしの評価が固まり、富岡流と呼ばれるようになりました。

第1図から ☗4五歩 ☖同歩 ☗2四歩 ☖同歩 ☗1五歩 ☖同歩 ☗7五歩 ☖同歩 ☗3五歩 ☖4四銀 ☗2四飛 ☖2三歩 ☗2九飛 ☖6三金 ☗1二歩 ☖同香 ☗3四歩 ☖3八角 ☗3九飛 ☖2七角成 ☗1一角(第3図)

後手玉が3一のまま、先手が1一に角を打った局面。2二と3三が空いていて、角は4四の銀に利いている。後手の馬が2七、先手の飛車が3九、先手の歩が3四にいる。後手の香は1二
第3図 ☗1一角まで(富岡流)

木村定跡と比べると、違いは次の 3 つです。

  • 突く順番が違う。 木村定跡は ☗4五歩のあとすぐ ☗3五歩ですが、富岡流は4筋・2筋・1筋・7筋・3筋の順で、☗3五歩を最後に残します。数字を並べた「42173(ヨニイナサン)」という覚え方があります。飛車も2八ではなく2九まで引きます
  • ☗1二歩で香を釣り上げ、1一を空ける。 1一の香を1二に動かして、角を打つ場所を作ります。玉が2二ではなく3一にいるので王手にはなりませんが、角は2二・3三を素通りして4四の銀まで利きます
  • 飛車を取らせても攻める。 第3図から ☖2八馬 ☗4四角成 ☖3九馬と飛車を取られますが、☗2二歩 ☖同金 ☗3三銀と後手玉に迫ります

☗3三銀からも難しい変化は残りますが、お互いに最善を尽くすと先手が勝つとされています。手元のソフト(やねうら王)では、第3図で先手の +200 前後、☗3三銀まで進んで先手の +400 前後です。木村定跡ほどの大差ではなく、先手が指しやすいという程度の差です。

よくある失敗:☗1一角の前に ☗2三飛成

木村定跡でいちばん間違えやすいのは、☖2三金と飛車を止められた場面です。目の前の金を取りたくなりますが、ここで ☗同飛成と飛車を切ると、攻めが続きません。

木村定跡の手順で、☖2三金に ☗同飛成 ☖同玉(第4図)

先手が2三の金を飛車で取り、後手が玉で取り返した局面。後手玉は2三にいて、後手の持ち駒に飛車・桂と歩 4 枚がある。先手の持ち駒は角・金と歩 2 枚
第4図 ☖同玉まで(☗1一角の前に飛車を切った場合)

第2図と比べると、先手の攻めの中心だった飛車が後手の持ち駒になり、かわりに得たのは金 1 枚です。手元のソフト(やねうら王)では後手の +100 前後で、先手よしだった局面が後手寄りに傾きます。☗1一角と王手をして、玉を3二にかわさせてから飛車を切るのが正しい順番です。

ほかにも、手順の途中で指したくなる手があります。

失敗の手どうなるか
☗2三飛成(☖2三金に)飛車と金の交換で攻めが続かない(第4図)。先に ☗1一角と王手をする
☗3三歩成(☖2四歩に)☖同桂と取られ、2五の桂は ☖2四歩に当たったまま。先手よしは保つが、ソフトの評価は先手の +450 前後と、☗3三桂成の先手の +800 前後より大きく下がる

☖2三金には飛車を切らずに ☗1一角、と覚えておくと、木村定跡の手順を選びやすくなります。

木村定跡で後手が手順を変えたとき

木村定跡の途中で、後手が本譜と違う受けをすることもあります。主な手と先手の攻め方は次のとおりです(どれも盤で切り替えて並べられます)。

後手の手先手の手ひとこと
☗4五歩に ☖6五歩☗4六角歩を取らずに反撃してくる。角を打って6四の歩をねらい、☖8三飛には ☗4四歩で先手が指しやすい
☗3五歩に ☖同歩☗4五桂4五に桂が跳ねて、3三と5三をねらう。☖同銀 ☗同銀 ☖3七角 ☗2九飛 ☖4六角成 ☗5六銀と馬を追って先手が指しやすい
☗1三歩に ☖同玉☗1五香香で歩を取り、端から攻めて先手がよい
☗1一角に ☖同玉☗2三飛成飛車が金を取って成り込み、先手勝ち
☗1一角に ☖1三玉☗3三歩成と金を作るのが決め手

中でも気をつけたいのが、☗4五歩を取らずに ☖6五歩と反撃してくる手です。

第1図から ☗8八玉 ☖2二玉 ☗4五歩 ☖6五歩 ☗4六角(第5図)

後手の ☖6五歩に、先手が4六に角を打った局面。角は5五を通って6四の歩に当たっている。先手の玉は8八、後手の玉は2二
第5図 ☗4六角まで(☖6五歩と反撃された場合)

☗4六角は持ち駒の角を打って、5五を通して6四の歩をねらう手です。後手が ☖8三飛と受けたら、☗4四歩と4筋の歩を伸ばして ☗4三歩成をねらいます。手元のソフト(やねうら王)では、第5図も ☗4四歩のあとも先手の +150 前後で、先手が指しやすい形です。

覚え方と練習

木村定跡は 77 手、富岡流も ☗3三銀までで 65 手ある長い定跡で、全部を一度に暗記するのは大変です。最初は、次の 3 段階に分けて覚えると混乱しにくくなります。

  1. 玉の位置を見る。 ☗8八玉・☖2二玉なら木村定跡、☗7九玉・☖3一玉なら富岡流
  2. 歩を突く順番を覚える。 木村定跡は4・3・7・2・1筋、富岡流は4・2・1・7・3筋
  3. 決め手の一手と、その準備を覚える。 どちらも ☗1一角。その前の準備が ☗1三歩(木村定跡)か ☗1二歩(富岡流)か。☗1一角の前に飛車を切らない

覚えたら、第1図から玉の位置を変えて、次の一手を自分で答える練習を繰り返します。答えの手を隠して並べ直すだけでも十分です。

実戦でこの戦型になったら、終わったあとに棋譜を見返して、どの分かれ道で外れたかを確かめます。棋譜蔵は Web で登録するだけで使えて、保存した自分の棋譜ファイルをパソコンでもスマホでもいつでも開けます。対局の棋譜を貼り付ければそのまま形勢を解析できるので、どこで形勢を損ねたかを手軽に振り返れます。

よくある質問

木村定跡は本当に先手必勝ですか?

木村定跡の手順で後手が大きな間違いをしなければ、先手が攻め切ると言われています。ただし前提は、お互いに ☗8八玉・☖2二玉と囲った先後同型であることです。後手はこの形に組まなければ避けられるので、木村定跡で「角換わりそのものが先手必勝」になるわけではありません。

木村定跡と富岡流は何が違いますか?

違いは玉の位置と、歩を突く順番です。木村定跡は ☗8八玉・☖2二玉の形で、4・3・7・2・1筋の順。富岡流は ☗7九玉・☖3一玉の形で、4・2・1・7・3筋の順に突きます。どちらも最後は ☗1一角が決め手ですが、木村定跡では王手、富岡流では4四の銀をねらう手です。

後手番で角換わり腰掛け銀になったら、どう指せばいいですか?

先後同型にしないのが基本です。この記事の手順は、後手が先手と同じ形に組んだときの結論なので、待機して千日手をねらう、☖6五歩から先に仕掛ける、☖6二金・☖8一飛と組む、といった指し方で同型を避けます。まずは「同じ形に組むと先手が攻め切れる」と知っておきましょう。

従来形は、もう指されていないのですか?

プロの対局では現代形が主流で、従来形の先後同型はほとんど現れません。ただ、腰掛け銀の基本の組み方として、入門書でもよく取り上げられる形です。歩の突き捨てや ☗1一角の手筋は現代形にも共通するので、先に従来形で覚えておくと、現代形の手順も理解しやすくなります。

棒銀や早繰り銀とは何が違いますか?

違いは右の銀の進め方です。棒銀は ☗2七銀→☗2六銀と2筋をまっすぐ攻め、早繰り銀は ☗3七銀→☗4六銀と3筋から攻めます。腰掛け銀は5六に銀を据えて、駒組みを済ませてから仕掛けます。ねらいが分かりやすいのは棒銀なので、角換わりを始めたばかりなら、先に角換わり棒銀の定跡を覚えてから腰掛け銀に進むのもおすすめです。

まとめ

  • 従来形の角換わり腰掛け銀は、☗5八金・☗2八飛・☗5六銀の形。2016 年ごろに現代形へ移るまで長く主流だった
  • 先後同型になったら、先手が ☗4五歩から歩を続けて突き捨てて仕掛ける
  • ☗8八玉・☖2二玉の同型は 木村定跡で先手が攻め切る。決め手は王手の ☗1一角で、その前に飛車を切らない
  • ☗7九玉・☖3一玉の同型も 富岡流で先手が攻め切れるとされる。歩を突く順番は 42173 で、☗1二歩で1一を空けてから ☗1一角
  • 同型が先手よしになったため、後手は同型を避けるようになり、今の ☗4八金・☗2九飛の形につながった

まずは上の盤で第1図から ☗8八玉と ☗4五歩を切り替えて、木村定跡と富岡流の歩を突く順番と ☗1一角の違いを見比べてみてください。